はじめに

 以前,ぼくは液体シンチレーション法(今後,液シン法と簡略化)による放射性炭素年代測定を実施していた。放射性炭素年代測定のための国際スタンダードNBSが比較的高くて,自ら作成する必要性を感じた。そのためには,化学分析法の主要な液シン法についての限界をクリアする必要性があった。その限界とは,液シン法は,試料液量に依存するというものである。

 その限界を次の報告で破ることができ,国際液シン学会から,招待講演の依頼がきたのである。
Motoharu Koba, 2016: Improved Results Using Higher Ratios of Scintillator Solution to Benzene in Liquid Scintillation Spectrometry. Published online by Cambridge University Press: 18 July 2016

 ここでは要約だけ次に,再掲する。

Abstract

Practical effects of the volumetric or weight ratio of scintillator solution to sample benzene in liquid scintillation spectrometry were examined here for radiocarbon dating. It is concluded, using a LKB-Wallac Quantulus™ 1220 and Teflon™-copper 3 mL vials with scintillator of toluene-based PPO and POPOP, that solutions containing the same concentrations of the same ratio, 1.3 or more, of scintillator solution to sample benzene show the same cpm/g and the same channel value of external standard spectrum, irrespective of different gross volumes of solutions. The addition of scintillator solution reduces background in 0.5 mL or so of benzene, and results in an appreciably enlarged figure of merit.

 さて,自然界より多めの放射性炭素が含まれるベンゼン試料を,使用後,どのように処理したのかを次に示す。

完全燃焼法

 高校時代に,ベンゼンの燃焼実験を実施したことがある。不飽和結合の炭化水素は不完全燃焼して煤が発生するというような実験だった。化学式は次のようだ。

C6H6 + 25/4 O2 → 1/2 C +3/2 CO +4 CO2

 完全燃焼させる式は次のようである。

2 C6H6 +15 O2 → 12 CO2 + 6 H2O

 この回路は次のものを使った。

図1 「図2 有機質の熱分解と炭酸塩の加水分解,および二酸化炭素の回収」の上段部

なお,引用文献は次のものである。考古学研究室の網干先生と米田先生にお世話になっての成果の一つである。
木庭元晴編著,2000.03: 畿内およびその周辺の考古遺物・遺跡の空間的・時系列的データベース作成 ー考古編年による放射性炭素年代軸の確立ー.平成8年度~11年度文部省科学研究費補助金[基盤研究(A)-(2)]研究成果報告書, 83p.

 図1の回路の上段の加熱分解の回路のうち,後半の硫黄吸収回路は外している。二酸化炭素と水はいずれも無害の気体として放出される。排気にはドラフトチャンバーを使用している。

おわりに

 2020年3月末で大学を離職し,実験室から離れた。文学部ながら,実験系学科である(自然)地理学を,大学関係者にご理解頂き,在職中,第四紀研究を実施する上での基本的な実験環境が得られたことに今更ながら感謝している。このページは,残してきた放射性炭素試薬に関わる取扱について,離職後1年余りを経たにもかかわらず,事務局を煩わしており,その説明文書の一つとして作成した。

以上,May 18, 2021記