はじめに
昨春と比べて,はるかに潮汐データの公開度が増したと思われる。今春の調査の後,これまで同様,潮汐計算を実施するのであるが,ネット検索をして,釣りサイトでの潮汐データがより詳細になったように感じた。徳之島では,これまで,最寄りの潮汐サイトは唯一,山村湾(やまむらわん)であるが,天城町の平土野港まで時間毎の潮汐データがある。
で,種々の作業をする過程で,海上保安庁が,標準港の名瀬港だけでなく,徳之島山村湾の時間当たりの推定値も公開していた。徳之島については,気象庁が運営する奄美大島の奄美港のデータも使える筈ではあるが,改正数が公開されておらず,使うことができない。昨年春の調査では,海保の情報公開の制限から,名瀬港ではなく,奄美港の観測値を名瀬港の改正数を使って和泊港や山村港に当てはめていたが,名瀬港が東シナ海に面していて,奄美港が太平洋に面していることを今回,ネット上で「発見」し,到底,奄美港の観測値は使えないことがわかった。
気象庁も海上保安庁も潮汐データの公開度が,この時代になっても極めて低い。USAのNOAAとは大違いである。この体質は国土地理院とUSGSとの対比と同様である。日本がヨーロッパ的な民主主義国家では無いことを強く感じる次第である。持っているデータも無料公開しないし,レジャーなどで求められる筈の日本の多くの海岸サイトでの新たな計算もしない。輸入技術としては持っているだろうが,それを使おうともしない。
ぼくはこれまで,潮汐に関する最寄り港について,標準港の干満データから海上保安庁によって冊子公開されている改正数を使って,計算してきた。
潮汐データの取得とその計算
http://motochan.sakura.ne.jp/public_html/KyozaiContents/44.htm
今回,山村湾の時間潮高について,ぼくが名瀬港から改正数を使って計算した結果と,海上保安庁によって公開されるようになったものとを比較し,当然ではあるが,海上保安庁の山村湾を使うべきという判断に達した。
情報データの時間的深さが許すならば(今だ新たに調べる元気はないが),過去3春の調査結果についても,沖永良部島については和泊港の,徳之島については山村湾の,海上保安庁による潮汐データを使いたいと思っている。
ここでは,時間単位の潮汐データからの潮位評価法を示したいと思う。
1 名瀬港と奄美港の潮汐データの利用の限界
徳之島(山村湾)と沖永良部島(和泊)の潮汐の標準港は,気象庁の奄美と,海上保安庁の名瀬になる。
次の図1のurl: https://www.jma.go.jp/bosai/map.html#10/28.096/129.414/&contents=tidelevel
この図1からみて,太平洋に面する奄美サイト(黄色の丸)の潮汐データについて,東シナ海に面する名瀬サイト(青色の逆三角形)を標準港とする改正数を利用するのが不適切であることが想像される。図2と図3は,ぼくの従来の計算結果を示したものである。大きな差は無いとも言えるが,基本的な手続きについて,奄美の方は誤りと言える。
2 気象庁と海上保安庁以外の潮汐情報公開サイト
ふと思いついて,NOAA tide predictionsを見た。極めて充実しているが,日本列島については公開されていない。もちろん,米軍などのためのあって,把握しているであろうが。
https://tidesandcurrents.noaa.gov/tide_predictions.html?gid=1399
日本の潮汐データは,海上保安庁と気象庁から提供されている。レジャーサイトでも公開されているが,同2機関のものと微妙に異なる。地形学的研究の目的からすると,同2機関のものを使うことになる。三つのレジャーサイトのMar. 13, 2021のものをここに示している。
図5は,Anglrβ,http://anglr.me,図6は,海天気.JP,https://www.umitenki.jp である。個々のサイトに入って,検索して表示できる。
著名なKe!sanにも潮汐計算ツールがある。https://keisan.casio.jp/exec/system/1258467122
このツールでは標準港だけが表示できる。
3 海上保安庁と気象庁の公開情報
A 気象庁サイト
ホーム > 各種データ・資料 > 海洋の健康診断表 > 潮汐・海面水位に関する診断表、データ > 潮位表 > 潮位表 名瀬
https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/db/tide/suisan/index.php
この上記サイトから,標準港の満干の予測値を見ることができる。
ホーム > 各種データ・資料 > 海洋の健康診断表 > 潮汐・海面水位に関する診断表、データ > 潮汐観測資料(速報値) > 潮汐観測資料(速報値)2021年3月 奄美
この上記サイトから,潮汐観測資料(速報値)を得ることができるが,標準港といっても,海上保安庁管轄の名瀬のデータは見ることができない。
このサイトから, 「潮汐観測資料の確定値(2021年2月以前)については、こちらから表示することも可能」である。名瀬を見ることができないので,当方には実質,使えないことになる。昨年春はこの限界のなかで,奄美の観測値を使ってしまった。
以上,Apr. 4, 2021記
B 海上保安庁サイト
気象庁とは社会に向き合うスタンスが異なるように思う。ただ,公開度はまだまだ低く,官僚的である。Webサイトのメンテも悪い。とはいえ,気象庁と比べると,確実にぼくにとっては,今春のデータ公開の発見で,有効な存在となってきた。税金で運営されている組織の潮汐データの観測そして公開の目的って何だろう,って,気象庁も海上保安庁も考えたことはあるのだろうか,と今も思う。
第十管区海上保安本部 海洋情報部
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/KAN10/kaisyo/tyouseki/tyouseki.html
図8は,名瀬験潮所である。このページには,潮汐月表が公開されている。
当方の必要なものは,令和3(2021)年3月(今だ公開されていない,4月20日ぐらいだろうか),令和2年(2020)3月,平成31年令和元年(2019)3月4月,平成30(2018)年3月4月である。過去のものは次のページにある。
2020年以前の潮汐毎時および満干観測値
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/KAN10/kaisyo/tyouseki/oldtyouseki.html
図9は,この第十管区海上保安庁のサイトからリンクされているものである。
平均水面、最高水面 及び 最低水面一覧表
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/TIDE/datum/index.pdf
Pub. No741にあたるもので,この,PDFのp. 41(ページ付けではp. 38)に,和泊,山村港,亀徳,がある。
第十管区海上保安本部 海洋情報部の,次のリンクを選ぶと,本庁の潮汐推算
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/TIDE/tide_pred/index.htm
から,沖永良部島和泊と徳之島山村湾がある第6区を選ぶ。
そして,その地図の山村湾を選ぶと,図10のように,潮汐データの推算値を得ることができる。
海上保安庁が,最寄り港の推算値も公開するようになったのは,非常にありがたい。今後は,この情報を元に,潮位調査時刻の潮位を求めたいと思う。推算値と観測値の間にどの程度のずれが生じるのかは気になるところであり,ぼくの現在,関心のある,和泊,山村湾について,最寄り港の推算値を使うか,名瀬の観測値を使うかは,名瀬の推算値と観測値を比較するのが,目安になると思う。
4 潮位計算サイト情報
なお,名瀬と山村湾の潮汐パラメータを示す。
まずは,名瀬:
略最高高潮面 230.1cm
大潮升 195.1cm
大潮差 160.2cm
小潮升 146.7cm
小潮差 63.4cm
平均水面 115cm
平均潮差 111.8cm
次に,山村湾:
略最高高潮面 222.0cm
大潮升 186.0cm
大潮差 150.0cm
小潮升 140.0cm
小潮差58.0cm
平均水面 111cm
平均潮差 104.0cm
これは,Anglr βの鹿児島県のタイドグラフから得たものである。http://anglr.me/tides/search/
「Anglrのタイドグラフは、「日本沿岸潮汐調和定数表(平成4年2月発刊)」に基づき算出しています。公式の潮汐推定値は、海上保安庁が毎年刊行している「潮汐表」を使用してください」とある。
気象庁 潮位表掲載地点一覧表(2021年)
https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/db/tide/suisan/station.php
他にも海上保安庁が公開している調和定数を使った計算サイトがあるが,「最寄り港」の潮汐計算のパラメータは示されていない。
tide736.net
https://tide736.net/
潮汐調和定数データとプログラム
http://ave.la.coocan.jp/kaihatsu/td.htm
潮汐情報プログラムの使用方法
https://almus.iic.hokudai.ac.jp/databases/x10508/tguide.html
ヤッカン
http://www2q.biglobe.ne.jp/~ooue_h-h/i/tide/tide.html
5 最寄り港の推算値を使って調査時刻の潮位を求める方法
前述のように,海保は山村湾の推定時間潮位を公開している。標準港名瀬からの山村湾推定値と,海保が提供している山村湾推定値を比較した結果が図11である。図11はエクセルで散布図を作成し,移動平均(区間2)で近似曲線を作成した。
名瀬港からの山村湾推定値は時間単位が改正数-20分だけずれるので,図11のようにずれることになる。このグラフを見ると,名瀬港からの山村港推定値(nとする)が海保の同値(sとする)に比べて,左山では干潮から満潮にかけては差が少なく,満潮から干潮にかけてはnが高く,右山では,干潮から満潮にかけてはnが低く,満潮から干潮にかけてはnが高い。両者の関係は比例的な視点では解釈できない。つまり,改正数を使って山村湾の潮位を求めるよりも,海保の(直接の)推定値が公開されているのであれば,4月20日頃発表される名瀬の観測値と,名瀬の予測値の間に大きな?違いが無ければ,もう,海保の山村湾推定値を使った方が良いと言える。
徳之島の全海岸の潮位と山村湾の潮位とがどういう関係なのか,もちろん知りたいのであるが,この情報がない。公開されていない。力の無いぼくとしてはこの点,諦めるしかない。以前ハワイを調査した時には,オアフ島などの任意の海岸での潮位を計算するプログラムが書店で販売されていて,それを使ったのであるが,日本にはない。このページの,はじめに,では,天城町の平土野港のものが(レジャーサイトで)公開されているとしたが,これは山村湾のものと同じであった。まあ,騙ったものなのだろう。同じ訳がない。将来,お手軽に個々のサイトの潮位計算ができる時代がくれば,当方の計算根拠から再計算してもらったらいい,というぐらいに軽くいなすしか無い。
さて,任意の時刻の潮位を求める簡易的かつ図学的方法をここに示したいと思う。図12はMar. 13, 2021の山村湾の推定時間単位潮位グラフである。
この図では,17:37, Mar. 13, 2021,の潮位を求める過程を示している。右手の,各種パラメータの入力,では,肌色に塗ったセルは,海保から得た数値と潮位計測時刻であり,図学的分析の前に入力できる数値である。黄色に塗ったセルは図学的計測から得られた数値である。
図13はAdobe Photoshopの表示例である。図14の下段テキストにこの観察または操作プロセスを示しているように,1. エクセルで時間毎の潮位を散布図で示して,その図を画像出力する。2. Adobe Illustratorにその画像を取り込んで,16:00 – 17:00間の線分を作成し,その長さを 37/60 パーセントで縮小し,16:37の位置から垂直線分を曲線と交差させ,図全体を300dpiで画像出力する。3. Adobe Photoshopで,その画像を取り込んで,Window/Information,を実行し,ポインターをその交点に合わせて,図の座標値を読む(図13,ポインターはスクリーンショットでは撮影されないので表示されていないが,情報ウィンドウには交差点のxy値が示されている)。そのようにして得られたy値が,図14の最下段の黄色のセルである,ya = 30.20である。なお,画像の原点は左上隅であり,右への水平方向がx値で,下への垂直方向がy値になっている。
この計算に関連して,この2021年春の調査に関わって作成した,エクセルファイルのリンクを次に示す。
TidalCalculationHourlyTides-3.xlsx
以上,Apr. 7, 2021記
6 実際の現地での潮位観測
犬の門蓋の南海岸では,Mar. 13, 14, 2021,測量とともに両日ともに潮位観測も実施した。
図15の潮位観測には時間がかかった。図16は基準点2の測量の様子。
図17での潮位観測は波が穏やかで時間を要しなかった。潮位計測水準を表している。図18は前日の基準点2を再測している。
①では,基準点2を使って,光波軸Mar. 13とMar. 14の比高を求めた。0.073mだけMar.13が高い。②では潮位からMar. 13の光波軸高度3.098mを得た。③では,同様にMar. 14の光波軸高度3.1138mを得た。
潮高の計測誤差は2cm弱であった。Mar. 13の波は結構荒かったのであるが。波が穏やかだったMar. 14の潮高を基準に両光波軸の海抜高度を求めた。
光波軸Mar.14は,3.114m a.s.l.,Mar. 13は,3.187m a.s.l.となり,これに基づいてそれぞれの測量値を換算することになる。
以上,Apr. 8, 2021記
7 験潮記録潮位と予測潮位の関係
下記サイトにこの一週間ほどアクセスした。Apr. 20,2021に験潮記録が公開された。験潮月記録は,翌月の20日に公開されることを確認することができた。
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/KAN10/kaisyo/tyouseki/tyouseki.html
第十管区海上保安本部が管轄する潮汐場について,個々にPDFの形で公開されている。このPDFからテキスト情報をコピペできるのでありがたい。前述のエクセルファイルのスプレッドシートを編集した結果を,次の図19に示している。
図19のグラフから,Mar. 13, 14, 16, 17の潮位観測時の観測値マイナス予測値の偏差を求めたのが,次の図20である。
図20は奇妙な印象を与える。Mar. 16の現場での潮位計測には問題があり,測量結果には反映させていない。そこで,Mar. 13, 14, 17の三日間のついて,観測値マイナス予測値のもともとの時間刻みの潮位変化を次の図21示す。
この図21を見ると,傾向として,満干ピーク付近で,観測値マイナス予測値が大きくなっている。月の引力によって現れる潮流からすると当然なのだろう。1日2回潮の満干のそれぞれのピークで観測値マイナス予測値に違いが生じるのも,当然ではある。
そもそも,予測値と観察値の10cmほどのずれは何に由来するのか。木庭はこのような比較を初めて試みたので,不覚ではあったが,要するに氷床などの融解による海水位の上昇を反映しているものと考えて良い。気象庁や海上保安庁がこのデータに対峙して,当然ながらこの海水位の上昇は認識しているものであろうし,海洋学などでは常識と考えて良いのだろう。
では,何故に予測値はこの海水位の上昇を踏まえて計算しないのか。この変数は予測できないものであり,調和解析をする際に,これを考慮していないのであろう。海水位の上昇が,潮流の調和解析をする上では小さく,海水位の上昇を考慮に入れなくても,言い換えると,海水位が多少上昇しても,計算値に影響をもたらしていないのであろう。
このような状況で海岸地形学では潮位をどのように取り扱えばいいのか。問題は中等潮位がもうどんどん変化しているということである。観測基準面から上昇して行っている。予測値と観測値のいずれを採用するべきなのか,ちょっと悩んだが,経年変化が起きうる生きている生物の研究の場合は観測値を採用すべきであるが,海岸地形学,特に過去数千年間に形成または破壊されてきた海岸地形を扱うには,予測値を採用すべきと考えた。略最低潮位から中等潮位までの高度はここ数十年以上,変更されていない。名瀬港と山村港の改正数も変更がない。予測値に海水位の上昇が考慮されていないことは,海岸地形研究者にとっては,幸いと考えている。
測量成果から潮位を使って海抜高度を求める場合,基本は光波測距儀の光軸高度である。光波測距儀から光軸高の中等潮位からの高度(海抜高度)を求める考え方を次の図22に示している。融氷水による海面上昇の効果は,海上保安庁による(観測潮位ー予測潮位),つまり,10cmほど積み上げることになる。
積み上げる量であるが,図21は名瀬港の値であって,徳之島の山村港ではない。図20には海上保安庁の改正数のうち,潮時差-20分を採用した時刻の偏差を求めている。潮位計算の限界からすると,図21のカーブから求めるよりも,図20のように時間単位の偏差から求める方がより現実的であろう。もちろん,海面上昇分については,潮高比は適用できない。
海面上昇を考慮しない場合の光軸高は,犬の門蓋地区では,Mar. 14の潮位が使われて3.114m a.s.l.であったから,海面上昇を考慮すると,偏差7.4cm故,3.114+0.074=3.188m a.s.l. である。種子ヶ浜地区では,Mar. 17の潮位が使われるので,2.554m a.s.l. であり,偏差11cm故,2.554+0.110=2.664 m a.s.l.となる。
以上,海面上昇を考慮した海岸地形学からみた海抜高度の計算過程を示した。
なお,海洋情報部トップ > 海の情報 > リアルタイム験潮データ > 名瀬(海上保安庁)のサイトには,名瀬リアルタイム験潮データがあり,これまで述べてきた海面上昇の証左が示されていると思う。本日Apr. 25では,遡ってApr. 18までの情報を得ることができる。次の図23と図24にはApr. 24のものを引用する。
以上,Apr. 25, 2021記
おわりに
過去の沖永良部島および徳之島の調査結果も再検証が必要である。