はじめに

 筆者は海岸測量には時系列でいうと,これまで,5mスタッフとオートレベルを使ったスタジア水準測量,高橋達郎先生との水平線を使った目視と巻尺の簡易測量,大型曲尺と180度水準器を使ってサインとコサインで高度と距離を求める1人簡易測量,スタッフとトランシットを使った測量,そしてプリズムレスで測距可能なレーザー光を使ったトータルステーションによる測量を実施してきた。
 この3月末で関大を離れる際には,これらの当方が獲得してきた機器類は残してきた。3月22日から30日にかけて,沖永良部島へは別所秀高氏,徳之島では高校生のバイト西見君,と,上記最後に挙げたトータルステーションを使い,木庭の後任にあたる方に預けた。彼には,これが空いている場合には利用したいことをメールで伝えた。狭量かつ臆病の彼からは,彼自身の問いかけ以外,何らリアクションが無い。
 そこで新たな測量機器の取得が必要となった。まずは,トータルステーションを探した。有力なものとして次が考えられる。
ノンプリズム400メートルレーザートータルステーションNTS-332R4 とBluetooth¥218,056

https://ja.aliexpress.com/store/group/Total-Station/406850_210990419.html?spm=a2g11.12010609.0.0.90a310caNm89bs

 日本製の中古はダイオードと充電池の劣化故に,購入対象にはならない。ライカの最低ランクのトータルステーションでは80万円ほどである。日本製の最低ランクだと170万円ほど。レンタルは見積サイトからアクセスする必要があるが1週間ほどの期間は考えにくいと思われるし,個人でのレンタルは割高であろう。
 別所氏が職場周辺で垣間見て,自ら使っていないのに信奉しているライカのレーザー測距儀の情報が気になって,ここ一週間ほど調べて,メーカーから情報も得た。その結果をここにまとめる。

Ⅰ ライカ製レーザー測距儀の利用可能な機種

別所氏によって紹介されたウェブページが次のものである。

 このページには,「DXF データキャプチャ」機能について,S910はあって,X4には無いとしている。ただ,水平角鉛直角センサーが搭載されているアダプターLeica DST 360をX4に接続することで,S910同様,3D座標値を得ることができる。ライカ ジオシステムズ株式会社の海野園里子さんのご指導を次に引用する。

1.テキストファイルで、XYZ座標を得る方法: リアルタイムでWindows端末に測定データを送る必要があります。S910(Wi-Fi)でも、X4 P2Pパッケージ(Bluetooth4.0)でも、同様です。テキストを開いて、転送するデータを設定すると、カーソルがある位置に値が転送されます。https://www.disto.tv/archives/3986

2. DXF形式のデータからXYZ座標を得る方法: お使いのCADソフトで、DXFデータから座標値が出力できるようであれば、こちらの方法でも良いかもしれません。S910のDXFモードで、弊社エントランスを測定したデータを添付しますので、ご参考になさってください。この方法の場合は、S910をお選びください。X4 では、3次元DXFの生成が出来ません。
 つまり,測量現場ではPCを持参し,WindowsソフトのDisto Transfer(無償提供)を使ってデータ取得するのであれば,S910だけでなく,X4でも3D座標値を得ることができる。PC持参ではなく現場では本体に記録し自宅などに帰ってからデータをPCに取り込むには,S910が必要になる。
 調査現場には種々の道具を持参し,かつ試料も採取する。雨も降り風も吹く。PC持参というのは非現実的である。インドアで3D(xyz)測定値を整理する必要があり,S910のDXFモードしか選択肢が残らない。X4は他機種に比べて極めて堅牢であるがPC持参ではその堅牢性を活かすことができない。

Ⅱ 測量精度

 海野園里子さんは,当方が求める測量精度からするとトータルステーションを選ぶべきという。確かにそうなのだが,今後の利用可能性を考えると,価格的に厳しい。この問題をクリアしないと行けない。
 炎天下ではレーザーが飛ぶ距離は限られる。eg.100mに達するにはライカ専用のA4ターゲットが必要となる。ポイントデータを得たいのに単なる距離情報しか得られない。
 海野さんによれば,「50mを測定された場合には、10cm以上の誤差がでるとお考えください。座標計算という点では、トータルステーションと同様ですが、価格・安定性・レンズ等に大きな差があるため、精度も異なります」とある。10cm以上/50mという誤差は余りに大きい。
 ところが,テクニカルデータを見ると,「公差は、95% の信頼性で,0.05m から10mで適用されます。適切な条件で許容値は10~30m距離で0.05 mm/m、30~100m距離で0.10 mm/m、100m を超過する距離で0.20 mm/m の偏差が発生する場合があります。不適切な条件で許容値は10~30m距離で0.10 mm/m、30~100m距離で0.20mm/m、100mを超過する距離」とある。50mに対して,0.20mm/m * 50m = 10mm =1cmである。海野さんのメモは誤りと考えたい。
 炎天下の場合,測距距離を50m程度に絞って測定すれば,non-target,1cm/50mほどの誤差で,繋いで行けるかどうか,不確かの部分はある。端っこの測定値を次々と繋ぐと,どんどん誤差が付加されて行く。回転して測定値を閉じて誤差を確認するのも一案だが,当方の調査は直線的なので,この確認作業をその都度することはあり得ない。
 そこで構造が既知の場で確認する必要がある。天気が良い日の午後1時〜3時に,真っ直ぐの階段で測量し,その比高や測定値の平面的な並びを「DXF データキャプチャ」機能を使って座標値を得て,イラレやSurferなどに取り込んで図化してみることである。試用機を得ることは難しいので,購入後に機器の限界をわきまえるということになるだろう。測定場所として, 自宅そばの階段を一巡りするのがいいだろう。
 Leica DISTO S910 による横断計測の検証(㈱ジオインフォマティックス2015.8)

http://gis-net.jp/2topics/DISTO_S910-Slice.pdf

によると,距離16m余り,比高2.5m余りの断面図で,水平距離と垂直距離いずれも誤差3cmほどであった。上記のテクニカルデータでは,距離10~30mで0.05 mm/m、とある。16mで0.8mmとなるので,30mm/0.8mm = 37.5倍の精度を謳っている。海野さんの情報では,10cm以上/50mであった。16/50*10=3.2cmとなる。海野さんの情報が正しいことがわかる。
 上掲の横断計測の検証の総評では,「信頼性が高い」とあった。用途と労力の観点から,期待範囲と考えられたのである。三脚と専用アダプターは作業上,必須アイテムと考えられ,カメラ画像での視準での作業が有効であることも記されている。

Ⅲ 購入サイト

 日本では現在,最も安いのは,下記である。本体(20万円)だけなら,より安いサイトはあるが,セット価格で考えると直接ライカで購入するのが安い。他店ではパッケージが古く,三脚とケースが異なる。
新発売!3次元レーザー距離計Leica DISTO S910 P2Pパッケージ

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000044.000006745.html

発売開始日:2020年2月3日(月),希望小売価格:250,000円(税別)

 他サイトの場合,古いパッケージながら,現在40〜30万円はしている。ライカは古いパッケージの在庫が切れ次第,他店に供給する予定なのであろう。
Leica DISTO S910 P2P パッケージ 同梱物
・Leica DISTO S910
・三脚Leica TRI 120
・アダプターLeica FTA 360-S
・ターゲットプレートLeica GZM 3
・精度証明書Calibration Certificate Silver

Ⅳ DXFデータキャプチャ機能を使った初期設定と測量手順

IV.1 初期設定
充電電池はLiイオンバッテリーなので,飛行機の搭乗の際は手荷物ではなくてパソコン同様,機内持ち込みにする必要がある。光波は金属水素バッテリーなので,光波については手荷物として預けたが,ライカのセットはコンパクトで軽いから機内持ち込みにしても苦痛ではない。
LeicaDISTOS910日本語マニュアルhttps://tajimatool.co.jp/pdf/manual/LeicaDISTOS910.pdf を参照すること。

  IV.1.1 まずは
a. バッテリーの充電 マニュアルp.5
 はじめて使用する前に、バッテリーを充電する。コンピュータを使用して本体を充電できるが、時間がかかる。本体がUSB ケーブルでコンピュータに接続され ると、アルバムのダウンロードや削除をすることができる。データのアップロードはできない。
b. 日付時刻と磁北偏差の設定 p.19
 本体の日付時刻と測量地域の磁北偏差を設定する必要がある。
c. ソフトウェアアップデート p.21

  IV.1.2 その都度
a.前日にはバッテリー充電 マニュアルp.5
b.電源ON後にはコンパスの補正とキャリブレーション p.26

IV.2 DXFデータキャプチャ操作手順
 Leica Geosystemsレーザー距離計Leica DISTO S910で測った値を、3DのDXFデータで出力する方法

 このファイルとこのファイルの中のリンクを読むことで測定の手順を知ることができる。日本語マニュアルは次のものであるが,これだけ見ても操作手順はわからない。用語集と考えればいいと思う。
Leica DISTOTM S910
The original laser distance meter

https://tajimatool.co.jp/pdf/manual/LeicaDISTOS910.pdf

このp.32にもDXFデータキャプチャの簡易の説明があるが,上記の「3DのDXFデータで出力する方法」の方がわかりやすい。
 測定ポイント数は1ファイルで30ポイントまでである。ファイル数は最大20個まで。測定はファインダモードにして実施するが,このモードだと自動的に測定毎に撮影される。測定の起点は本体後端にある。
Leica DISTO™ S910 DXFキャプチャ機能と座標軸

https://www.disto.tv/wp-content/uploads/2017/06/Leica-DISTO-S910_DXF%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%97%E3%83%81%E3%83%A3%E6%A9%9F%E8%83%BD%E3%81%A8%E5%BA%A7%E6%A8%99%E8%BB%B8.pdf

も参考になる。

IV.3 測量手順

a.ターゲットと測量棒の準備
 このレーザー測距儀を使って,1人で実施することも可能ではある。測量域は当然ながら前もって決まっている。これまでは測点にカメラの三脚上にプリズムを設置して,これをノンプリズム対応の光波測距儀で狙った。S910もノンプリズム対応であるが,同様の手法が必要である。プリズムに代わるものとして,ターゲットプレートLeicaGZM3をカメラの三脚上に固定する。1人で実施する場合は,より簡便なターゲット(100円ショップでiPhone用の小型三脚を入手し,その頂部にプラスチック板をクリップ固定)を作成して測点に前もって配置する必要性がある。
 海水準計測には2m長の棒が必要で,調査地域で調達して黄色のビニールテープなどを巻くなどする必要がある。平坦な場所であれば,この2本と水平線を使って高度情報の誤差を知ることができる。

b.S910の充電
 電源リチウムイオン電池(充電式),充電時間4時間,レーザー照射時間は最大4時間程度。フル充電時測定回数4000回まで。

c.測量計画を立てる
  c-1. S910設置点は測量対象直線距離100mのほぼ中央に設置する。
  c-2. 設置点から,前もってGEで予定した後方交会法backward
 intersectionのための3点を視準する。時計回りでbi-1, -2, -3と狙うのであるが,本体を整準後,bi-1, -2, -3をファインダーで狙って,メカニカルコンパスまたはiPhoneの長辺を接して,時計回りに回転して,bi-1, -2, -3の角度を読み取るか,DXFキャプチャ機能に入っているので,本体近辺の地上にレーダーを発射して測定すれば良い。

d.DXFキャプチャ機能を使って測量を開始
  d-1. 1回目の100mほどの測量が終わる。
  d-2. 2回目以降は,本体を40mほど移動して,前後80mほどを追加測量する。1回目の100mの最後2測点を重ねて測定する。もちろん,その2点に何らかの目標物を残す必要がある。

なお,
 野外調査の前に,試験的な測量を試みる必要がある。(May 17, 2020記)

追記 Mar. 4, 2021

be氏がライカから試用許可を頂いて,八尾市の公園で実際に使ってみた。100mほど離れたコンクリート構造物へのレーザー照射であっても,その照射点に近づいてもぼくはそのレーザー照射点を見ることができなかった。be氏は見えるという。それよりも,風で測距儀が揺れる。アダプターが不安定で操作中に,Leica DISTO S910がズレる。ということで,当方の用途には,残念ながら,使えないことがわかった。

以上