はじめに

 上記タイトルは気に入っている。昨日,恩師の岡山大学名誉教授の高橋達郎先生のお宅にお邪魔した。昇天されたのは,2019年1月28日であった。お葬式は家族葬のようなものであったらしい。その後,入試が終わったあとに,お邪魔した。そして,昨日, Oct. 29, 2020, お邪魔した。その際に居間の本棚にあった先生の博士論文の数ページを写真撮影した。福本紘先生の博士論文にあった高橋先生の報告の引用が気になっていたからである。

 福本先生は高橋先生の梅花短大のご後任で,退職後であったが,2013年夏に昇天されている。福本先生によれば高橋先生の口添えがあった訳ではないということであったが,いずれも海岸地形研究者であった。福本先生には関西大学の学部と大学院の非常勤に長年に亘ってお世話になった。高橋先生も特に岡山大学ご退職後,ご自宅のあった岡山市足守から,6年間にわたり大学院で自然地理学特殊研究などをご担当頂いた。その間,教え子が十人近く生まれて,達郎先生のお人柄を慕って,時に集まってきた。古いところでは,松田順一郎,貝柄徹,矢嶋巌とその奥方の狩野英子,別所秀高,新しいところでは岩田央之などである。次の写真は本日,教え子の一人である別所秀高さんからメールで送られてきたものである。

左の写真は,別所さんが足守のご自宅を訪ねた際に,ランチをご馳走になった料亭前でのスナップである。御年,八〇歳の時である。奥様によれば,母上は94歳で大往生されたと聞いた。亡くなるまで,パッチワークなどをして知人にプレゼントなどされていたという。達郎先生も亡くなる二日前には奥様と一緒にスーパーなどで買い物をされていて,その翌日体調が悪くなって救急車で入院され,そのさらに翌日に亡くなったとのことであった。米寿と金婚式の祝いをする手はずになっていたところだったという。

  昨晩,自宅に戻り,iPhoneで撮った下手な写真を画像処理,プリントアウトして,読み終えた。このテーマの共同研究者である川口昇さんと別所さんにコメントを添えて送ろうと思ったが,思い直して,退職時に大学の個人研究室や実験室の文献関係などはほぼ捨てたので,無いかと思い自宅の書棚を覗くと類を見ないほど,すぐに目に頂いた本が飛び込んできた。

Tatsuo Takahashi, 1977. Shore Platform in Southwestern Japan –Geomorophological Study–. Coastal Landform Study Society of Southwestern Japan, 177p.

1 高橋達郎のこの海岸地形の評価

 上記論文では,ちょうどイメージで一枚になるので次に提示する。記載されていることがすぐにわかるということであれば,このWebページを読む必要はないでしょう。ただ,そういう人が世界に数人は居ると思いますが,そう簡単では無いと思います。

Takahashi, T, 1977, pp. 32-33.

 

 ちょうど僕が院生時代に高橋先生が博士論文提出前に,Science Reports of Tohoku Universityに投稿されていたことを思い出し,次のサイトから検索した。その結果をそれに続いて示す。こうして見ると,論文博士提出者として優等生である。当時,西村先生がぼくと二人だけの時に,感心しておられたことを思い出す。恐らく,論文博士提出を高橋先生が西村先生に打診して,西村先生がその前にScience Reportsに投稿されたらより良いというようなアドバイスをされて,高橋先生はそれにまじめに応えられたものと思われるのである。

https://tohoku.repo.nii.ac.jp/

Geomorphological Study of Shore Platforms – Analytical and GeneticalTAKAHASHI Tatsuo
The science reports of the Tohoku University. 7th series, Geography,24(2),115-163 (1974-12)      pdf        
Distribution of Shore Platforms in SouthWestern JapanTAKAHASHI Tatsuo
The science reports of the Tohoku University. 7th series, Geography,24(1),33-45 (1974-06)      pdf        

Level and Age of the Planation of Emerged Platforms near Cape Muroto, ShikokuTAKAHASHI Tatsuo 
The science reports of the Tohoku University. 7th series, Geography,24(1),47-58 (1974-06)      pdf        

Shore Platforms and Costal Platforms along Nichinan CoastTAKAHASHI Tatsuo 
The science reports of the Tohoku University. 7th series, Geography,23(2),119-133 (1973-12)      pdf        
Formation and Evolution of Shore Platform around Southern Kii PeninsulaTAKAHASHI Tatsuo
The science reports of the Tohoku University. 7th series, Geography,23(1),63-89 (1973-06)
Search outcomes of the Portal site of Tohoku University, using Takahashi 1973 and 1974

 上記5文献には,冒頭に示した図は入っていない。全部抜き刷りを頂いたが退職時にかなりの部分を捨てた可能性が高い。抜き刷りはネット上で閲覧が可能であるから。冒頭の1枚は字数は少ないが内容はかなり濃厚なものであると感じている。以降は,高橋(達郎)とする。高橋の博士論文提出に到る研究履歴は,岩石海岸のショアプラットフォームの研究と言える。shoreplatformの適訳は存在しない。潮間帯プラットフォームintertidal platformとほぼ同義である。ただ,intertidal platformはGlossary of Geologyには無い。intertidal を引くと,= littoralとあるが,littralには潮間帯と深さ200mまでの深度範囲をも示すので,littoralよりもintertidalの方がまだ適切であることがわかる。ぼくは好んで潮間帯プラットフォームを使ってきたがそれは,米谷静二先生の個研にあったZeitschrift für Geomorphologieの影響があると思う。学部時代にアクセス可能な唯一の自然地理学海外専門誌であった。shore platformか,shoreplatformか,これも難しい。intertidal platformとした場合に,shore platformに限定できるのか,これもわからない。Fairbridge, R.W.編のEncyclopedia of Geomorphologyは大学院時代最も使ってきた事典の一つだったがそういえばこの頃,全く見ていない。個研に置いていた。退職時に梱包しておそらく父の自宅に投げてしまった。廊下に押し込んだかなりの数の段ボール箱から探すのは大変だ。ネット検索すると,Encyclopedia of Geomorphologyではshore platformが使われいるのがわかる。歯抜け表示のGoogle Booksであるが,p. 957は何とか見えている。とにもかくにも,高橋同様,shore platformを使うことにする。shore platformは潮位からの位置だけ示したもので,wave-cut benchのようにわかりもしないのに成因が入っている名称よりは上品で正確だ。日本語が無いのは残念だが,和の表現としてはショアプラットフォームが最も適切のように思われる。

1 shore platform概念はabrasion platform概念と対

 日本では,岩石海岸の侵食地形研究者の魁である豊島吉則が,海外の研究者のテキストを引用する形で,日本の教科書などに示したものが,ぼくの学部時代には流布していたと思う。その整理されたものが,二宮書店1973年発行の地理学辞典に掲載されている。汀線付近の平坦地形としては,波食台と海食台がある。そのままコピペせずに当方の独断で簡略化している。

以上,Oct. 29, 2020

波食台,波蝕棚 abrasion platform, wave-cut bench, wave-cut platform, p. 609: 海食崖下のほぼ潮間帯付近に形成される水平あるいは緩く海側に傾斜する岩礁面。波が荒い外洋に面する場では波の到達水準が高いため,高潮面より上位に分布するstorm benchを作ることがある。波食台は,波食作用のほかに海水飽和水準より上部の風化営力が重視されており,波食と風化作用の協同によって説明される。【文献】Cotton, C.A., 1952. Geomorphology. New York.

Takahashi, 1977, p. 4

 これは著名な図である。Initial Surface after Drowningの地形から始まって,海食崖AからBに移行している。AとBの間に波食棚Rock-platformが形成されている。この海食崖A-Bの間で侵食された部分ではすべて,weathering環境が継続されてきたことを示している。

Bartrum, J.A., 1926. “Abnormal” Shore Platforms. Jour. Geol., Vol. 34, pp. 793-806.

海食台 abrasion platform, p. 73: (残念っ。何故か,数時間の編集作業が失われたが,気を取り直して) 海面下に見られる侵食面で,相当長期間の海食作用によって形成された,緩やかに沖側に傾く岩礁面を指す。この沖合には,海底堆積台や海底崖錐などの堆積地形が見られることが多い。海食台は潮間帯付近に見られる波食棚より一段下位にあり,波食棚が侵食されて,平衡縦断面に近づいてゆく地形と考えられている。【文献】Bird, E.C.F., 1968. Coasts. Canberra.

Takahashi, 1977, p. 10

豊島吉則, 1967. 山陰海岸における海蝕地形に関する研究. 鳥取大学教育学部研究報告 自然科学, Vol. 18 (1・2), pp, 64-98.

この図はTakahashi (1977)のものであり原典を確かめていない。鳥取大学アーカイブでも用意されていない。

 岬部から湾頭にかけての海食台と波食台の高度と幅の関係を示したもので興味深い。

以上,Oct. 30, 2020記,Figs. 3 and 7についてはNov. 3, 2020追記

 日本の事典では,現状ではこれを越える解説はないと思っている。驚くべきことに1898年のDavisからほぼ変わっていない。

2 Cotton, C.A.の海食台と波食台の認識

 このWebページのテーマに入る前に,ショアプラットフォーム(波食台)とアブレージョンプラットフォーム(海食台)について理解しておこう。下記の文献はニュージーランドオークランドの古本屋Jason Booksで見つけた。この1st Editionは1922年に遡る。

Cotton, C.A., 1958.  Geomorphology: An Introduction to the Study of Landforms. Whitcombe  and Tombs Limited, Christchurch, NZ, 7th Edition, revised.

 渡辺光の下記教科書は,逐一比較した訳ではないが,主にSir Cotton の著作の影響下にある。米谷静二先生は地形学の授業でこれを使われたのですべて読んだが,羅列的説明的で,読者の好奇心を引き出すものではなく,筆者の研究者的な姿勢を全く感じることができなかった。とはいえ,学の草創期には,東大的欧米知識の受け売りは生じるべくしてのものである。

渡辺光,1961. 『地形学』 現代地理学大系 第1部 第1巻 自然地理・応用地理, 古今書院.

 このウェブページのテーマからすると,Sir Cottonの,pp. 402-425 (pp. 402-421のpdf,これにpp. 422-425pdfを追加),が最も参考になると考え,コピーして,次にリンクしている。

https://crescent.motochan.info/geomorphology-portfolio/Cotton404-421.pdf

https://crescent.motochan.info/geomorphology-portfolio/Cotton422-425.pdf

 なお,当時は教科書に参考文献リストを掲載する習慣がなかったようで,Cottonの本にはレファランス情報がない。そして最も引用されている図は,W.M.Davisである。DavisとCottonの間で,自然認識に大きな差は無いと考えられる。Cottonは,Davisを踏まえて,航空写真など,より読者に伝える努力はしているのであるが。このWebページの主題とは必ずしも一致しないが,海岸地形学としては,ぼくとしても関心が深い,海食台と波食台,そして海岸段丘と隆起波食台についてのCottonの認識を確認したいと思う。

a. Davis同様,海岸段丘は海食台が離水したものと考えている。

b. 海岸段丘とは別に,隆起(離水)波食台が,その名の通り,波食台が離水したものと考えている。

c. 海岸段丘とその後背の段丘崖について,かつての海食台とその後背の海食崖に対応させている。

d. 段丘崖下に波食台が分布し,その海方には隆起海食台が分布する可能性も理解されている。

 以上の認識は現在と全く変わらない。波食台はその平坦性が特徴的であるが,海食台は元々かなりの凹凸があって離水後の風化や崖錐などによって見かけ上の平坦性が高まると考えている。この辺にかなり拘って記述されている。以下,掲載されている図と写真を使ってCottonの考え方を示す。

 Davisの図が引用されている。4stagesからなる。stage 1は海食台が海面下で形成されている。A付近には海食崖とその下に波食台が形成されているが,stage 2のC付近には離水まもないので,海食崖も波食台もない。旧海食崖と旧波食台は崖錐や扇状地で埋没されてしまう。stage 3では海食崖が陸方に移動し,それとともに海食台が海面下に形成されてゆく。波食台は海食崖とともに陸方に移動してゆく。stage 4では海面下の海食台はかなり広くなり,海岸段丘幅はかなり縮小される。

 新たな海岸線位置は,このブロックダイアグラムの海岸線に平行な破線に当たっている。これが海食台を作るmarine abrasionが有効な深度に当たっている。ここからこの図の海食崖までが侵食の場で,この破線より海側には堆積物からなる緩斜面が形成されている。

 Fig. 396でも,海食崖が後退する過程で,海水準より上の岩石は大気下での風化作用で緩んで波食で風化物質が取り去られ,波食台が形成される。よく見ると,この図の海岸線付近には,幅狭い平坦面が描かれている。これが波食台である。ただ,Fig. 408同様,海食崖そして海食台の陸方への侵入で波食台は陸方に移動して行くのである。

 前掲の豊島吉則の海食台の説明の最後に,「海食台は潮間帯付近に見られる波食棚より一段下位にあり,波食棚が侵食されて,平衡縦断面に近づいてゆく地形と考えられている」,とある。Birdがそう言っているのか,わからない。ぼくはBirdのCoastを持っていた筈であるが,しっかりと読んでいなかったか,忘れたか。ぼくが上掲のFigs. 408 and 396を使って説明したように,環境さえ整えば,波食台(波食棚)と海食台は同時に形成されるものである。波食台は海面より上の風化帯を取り除く形で形成され,海食台は,marine abrasion,いわばブルドーザーのようにガリガリと20 fathomsぐらいの深さまで,さらに陸域をも削り取って行くが,それに応じてというか,波食台も海食崖とともに陸域の海水準より上位部分を削り取る形で移動してゆくのである。ブレーカーゾーンと海岸線との距離が増すほど,marine abrasionの力は弱って行く。波食台も幅が大きくなると波食力は弱まるであろう。両者はいずれも波力に由来するものであるが,海食台については平衡断面の形成はありうるが,波食面はそれに連動しないのは明らかである。Cottonのこの文献には種々述べられているが,くどくどしく,結果的には必ずしも,正鵠を得たものでは無い。

以上,Oct. 31, 2020

 海食台は海面下であり,その成因を知る上で必要な暴浪や大きなうねりの下での海食台の砂礫の移動や岩盤の侵食状況を観察するのは難しい。波食台の形成環境を把握することは比較的容易ではあり工学方面からの営力論的アプローチもあったが,出来上がった波食台上の風化環境を調べても,従来の成因論から見てお門違いになっている。地球科学的アプローチとしては年代論と分布論の組み合わせが最も有効と思われる。

 そういうわけで,波食台に対して,まずは測量することになり,高橋はひたすら測量をした。ただ,その時代論は必要で,Level and Age of the Planation of Emerged Platforms near Cape Muroto, Shikoku,が生まれた。豊島吉則に,下記の房総半島の隆起波食台の測量を駆り立てたのも,同じ理由からであろう。

豊島吉則, 1956. 三浦半島南端の海蝕地形. 地理学評論, Vol. 29, No. 4, pp. 240-252.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/grj1925/29/4/29_4_240/_pdf/-char/en

3. 高橋の湾口から湾頭にかけてのショアプラットフォームの高度と幅の分布モデルについて

 Takahashi (1977)の地域研究部の第1章平戸島のpdfを次に掲載する。

Takahashi, T., 1977. Hirado Island, Kyushu. Chapter 1 in  “Shore Platform in Southwestern Japan –Geomorophological Study–. Coastal Landform Study Society of Southwestern Japan”, pp. 18-32.

4.島弧変動下の裾礁地域での侵食性礁原研究の意義について

 木庭の卒業論文の一部とその年代に関する報告が次に公開されている。

木庭 元晴,1974. 沖永良部島の海岸地形と沖積世高位海水準. 東北地理, Vol. 26, No. 1, pp. 37-44.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tga1948/26/1/26_1_37/_article/-char/ja/

抄録: The coastal geomorphology is discussed at Okino-erabu Island, one of the coral islands in the Southwest Archipelagos, Japan.
The author classified the shoreline of this island based on the combination of some elements of coastal geomorphology, i. e. vertical coastal cliff (15-70m a. s. l.), sea cliff, intertidal bench, submarine bench and grooves. The relation between the classification and the distribution of several types of notches is clarified (Fig. 1).
Higher postglacial sea levels are deduced from the altitudes of notches, beach rocks and negroheads, namely:
1) the 2.4m level a. s. l, is suggested by emerged negroheads and emerged beach rocks,
2) the 1.8m level is deduced from average altitude of retreat points of all measured notches without structural ones, average altitude of retreat points of V-shaped notches and emerged beach rocks,
3) the 1.1m level is shown with emerged beach rocks (Fig. 7).

木庭 元晴, 小元 久仁夫, 高橋 達郎, 1980. 琉球列島, 沖永良部島の完新世後期の高位海水準とその14C年代. 第四紀研究, Vol. 19 , No. 4, pp. 317-320.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaqua1957/19/4/19_4_317/_article/-char/ja/

抄録: Okierabu-jima of the Ryukyu Islands, which is a poly-terraced Pleistocene raised coral reef island, doesn’t have a Holocene raised coral reef, but coastal erosional features showing higher sea levels in Holocene. The authors obtained some data indicating the period of one of the Holocene higher sea levels.
All radiocarbon dates concerning Okierabu-jima’s Holocene sea-level changes are plotted on the date-height coordinates (Fig. 2). The paleo sea level between 5000 and 2000 y. B. P. lies above the broken line drawn from 6m below to 2.18m above the present sea level. The period of the highest sea level in Holocene seems to be about 3000 to 2000 y. B. P. in this island. Its height is presumably 2.4m a. s. l. derived on an average from heights of stacks and coastal benches in the almost all coasts of the island (Koba, 1974). Beach rocks were already formed at the landward extremity of the reef flat corresponding to the almost present sea level about 1300 y. B. P.

 両者で,分布と年代が一応揃った。

 頭書の高橋の博士論文の図と,木庭(1974)中の次の図は同じ現象を示している。木庭は1972年の夏に卒業論文作成のために調査した結果である。この東北地理の投稿論文の査読者は,当時の宮城教育大学の若生達夫先生,東北大学理学部助手の牧田肇先生,岡山大学教育学部の高橋達郎先生であった。投稿前に,自然地理学講座教授の西村嘉助先生と,当時は博士課程院生(印度カルカッタ大学博士課程修了後の入学)であった中田髙先生の指導を受けている。

 高橋(1977)の報告は,1974年提出の博士論文の自費出版である。高橋は,木庭(1974)を査読しており,この観察の一致について,当時またはその後のフィールドをご一緒した際に,話があったかも知れないが,残念ながら覚えていない。平戸島の岩石海岸の地形と,沖永良部島の岩石海岸の地形が一致していたのである。前者は火山岩,後者は更新世石灰岩からなっている。

以上,Nov. 1, 2020

5. 文献読み

5-1. 関大図書館での資料コピー

 この章は,閑話休題に当たるものだろう。もうこの課題から2カ月以上,離れていた。父の施設であるタニハの大工仕事などと大本関係者との出会いなどが主な仕事であった。この春の徳之島調査の前に,調査内容を意識化しないと,折角,金暇かけて行っても残念な結果になる,というわけで,徳之島調査の観点を確認することと論文化の下準備として,この章を設定した。協同研究者への情報の提供をしつつ,自らも確認したいのである。

 昨日,ほぼ10カ月近くご無沙汰であった関西大学,その図書館に向かった。身分証明のカードがまず拒否された。3年前に受け取った名誉教授のカードで無いと認知してもらえないのである。イラレで作成した閲覧カード11枚を,閲覧窓口に提出した。このうちの1枚はミューズキャンパスにあるので総合図書館に到着後,メール連絡があるという。残り10枚が総合図書館にあるので全部を簡単に流し見して,上述の豊島吉則の論文の他に,5書籍の中からそれぞれ1ヶ所をカーボンコピーした。なお,以上11件の文献は関大図書館の検索システムで,キーワードcoastとgeomorophologyで900件(重なりがある)ほどから検索した結果である。関大図書館蔵書の検索そのものは誰でも可能である。関大図書館の検索結果のうち,閲覧カードには,通常の書誌だけでなく,請求記号と資料IDが必要である。情報タイトルは次のようである。

No. 巻冊次等 補足巻号 年月次 所蔵館 配置場所 和洋区分 請求記号 資料ID

Jan.9,2021関大図書館で閲覧したもの。

豊島吉則の論文は,鳥取大学教育学部研究報告 自然科学,のVol. 18 (1・2)にある。
0009 17,18(1-2)19(1-2),20(1-2) 196612-196912 総合図 B2書庫 和 M041T17-2 003793273
雑誌の英語タイトル: The Journal of the Faculty of Education, Tottori University. Natural science

Advances in coastal modeling
editor, V.C. Lakhan. — 1st ed. — Elsevier, 2003. — (Elsevier oceanography series ; 67).
0001 総合図 B2書庫 洋 452.08E49*67 220154627

Applications in coastal modeling
edited by V.C. Lakhan and A.S. Trenhaile. — Elsevier, 1989. — (Elsevier oceanography series ; ; 49).
0001 総合図 B2書庫 洋 452.08E49*49 203823761

Coastal geomorphology in Australia
edited by B.G. Thom. — Academic Press, 1984.
0001 総合図 B2書庫 洋 452.7C652*1 202846202

Yugoslavia : the Adriatic Coast
edited by Stuart Rossiter. — Ernest Benn, 1969. — (The blue guides).
0001 総合図 B1書庫 洋 239.6R2*1 200767925

Introduction to coastal processes and geomorphology
Robin Davidson-Arnott ; : pbk. — Cambridge University Press, 2010.
0001 : pbk 総合図 B2書庫 洋 N8454.73 210880678

The geomorphology of rock coasts
Alan S. Trenhaile. — Clarendon Press, 1987. — (Oxford research studies in geography).
0001 総合図 B2書庫 洋 454.7T794*1 203293819

Karst geomorphology
edited by M.M. Sweeting. — Hutchinson Ross, 1981. — (Benchmark papers in geology ; ; 59).
0001 総合図 B2書庫 洋 E450.4B1*59 201816130

Geographical variation in coastal development
J.L. Davies ; edited by K.M. Clayton. — 2nd ed. — Longman, 1980. — (Geomorphology texts ; ; 4).
0001 総合図 B2書庫 洋 E454.08G345*4(2) 201768291

閲覧以来中:
Geomorphology of rocky coasts
Tsuguo Sunamura. — J. Wiley, 1992. — (Coastal morphology and research).
0001 ミューズ ミューズ書庫 洋 A454.7SU 240115945

 コピーしたものの書誌情報を整理して,次に示す。読むのに適当な順序としている。豊島吉則の考え方は,おそらく古典的とも言えるBirdとDaviesに従っているであろう。出版年は豊島吉則より新しいが,BirdとDaviesのものはより古い教科書から更新されたものであり,従来のロジックも更新されていると思われる。

1 PDFダウンロード Bird, E.C.F., 1969. IV Cliffed Coasts. In “Coasts, 2nd ed.” by Bird, E.C.F., pp. 49-80. The Massachusetts, Institute of Technology.

2 PDFダウンロード Davies, J.L., 1980. VI Erosion processes and forms. In “Geographical variation in coastal development”, pp. 76-99. Geomorphology text 4, edited by K.M. Clayton, 2nd ed., Longman.

3 PDFダウンロード 豊島吉則, 1967. 山陰海岸における海蝕地形に関する研究. 鳥取大学教育学部研究報告 自然科学, Vol. 18, pp. 64-98.
Toyoshima, Y., 1967. A study on marine erosive features along San’in Coast. The Journal of the Faculty of Education, Tottori University. Natural science, Vol. 18, pp. 64-98.
 なお,San-In Coastを,現在の英字表記San’in Coastに,Vol. 18 (1-2)を,ページ付けから特定できるのでVol. 18に変更している。

4 PDFダウンロード Trenhaile, A.S., 2003. Modeling shore platforms: present status and future developments. In “Advances in Coastal Modeling”, pp. 393-409. Elsevier Oceanography Series 67, Edited V.C. Lakhan, Elsevier Science B.V.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0422989403801319
Publisher Summary: This chapter discusses a model shore platform evolution, and the modifications that need to be made to increase its general utility. Platform models consider erosive conditions within the inter-tidal zone, and are flexible enough to encompass the wide range of wave, tidal, and geological conditions that occur in the field, as well as changes in sea level and climate. The model use basic wave equations to simulate the erosion of rock coasts in the inter-tidal zone. In its present form it can be used to study the long-term evolution of wave-dominated coasts with geological conditions that facilitate the formation of seaward-facing scarps or other upstanding irregularities. Field calibration of the constants in the model permit its use to predict platform and cliff erosion in specific areas with rising sea level, over much shorter time scales. The model does not consider the effect of bio-erosion, weathering or other down wearing mechanisms, although micro-erosion meter data suggest that they are important and in some cases dominant factors on some platforms. The model is modified to allow down wearing processes to operate in conjunction with wave generated back wearing.

5 PDFダウンロード Trenhaile, A.S., 1987. 10 Limestone Coasts. In “The Geomorphology of Rock Coasts” by A.S. Trenhaile, pp. 240-265. Oxford research studies in geography, Clarendon Press.

6 PDFダウンロード Davidson-Arnott, R., 2010. 13 Cliffed and rocky coasts. In “An Introduction to Coastal Processes and Geomorphology”, pp. 396-438. Cambridge University Press.

https://assets.cambridge.org/97805216/96715/frontmatter/9780521696715_frontmatter.pdf

次の事典は,レファランスコーナーで見る必要があるがまだ見ていない。見る意味があるかどうかはまだわからない。edited by Fairbridgeは持っているが。
Encyclopedia of geomorphology
0002 v. 1: A-I 総合図 1Fレファレンス 洋 N8R454.0392041 220166161 禁帯出 edited by A.S. Goudie ; : set, v. 1: A-I, v. 2: J-Z. — Routledge, 2004. 0001 v. 2: J-Z 総合図 1Fレファレンス 洋 N8R454.0392042 220166170 禁帯出

 さて,この章でのpdfアップロードの際に,SeaMonkey + Cyberduckを使ったが,後者のトラブルがあり,ほぼ今日一日,この作業にかかってしまった。これからこの6本を読もうと思うが,この順序で読みたいと思う。図書館でコピーしたので紙媒体はある。pdfを読み流して,参考になるところは紙に鉛筆で丸で囲んで,後に,このサイトにまとめたものを示したいと考えている。

以上,Jan. 10, 2021

5-2. Bird, E.C.F., 1969. Coasts.

 タニハや母の年祭などがあり,日付を見ると一週間後のこのテーマへの復帰である。IV Cliffed Coasts,で気になったところをまとめたいと思う。cliffed coastsは,日本語では岩石海岸にあたる。次の文献を参照する。

荒巻孚 Aramaki, Makoto, 1971. 『海岸』 屑書房, 426p.

 これは学生時代に購入した最初の海岸地形の研究書であった。塚田公彦先生からの紹介であった。東京文理科大学理学部地学科地理出身であり,それゆえにこそ,この本で最も注目されるのは,p. 286−287の間の折り込み図,図7.3 日本沿岸の海岸形状,であろう。II 海岸過程(ショアプロセス),では,海岸を砂浜海岸と岩石海岸に二分している。ショアプロセスから見ての海岸線を二分する概念の一つがcliffed coastsということになる。

図13 岩石海岸とショアプラットフォーム

 図13では,海面付近に侵食面があるかないか,前者の場合,そのレベルは,およそ高潮,低潮,そして潮間帯に位置しているとなるのであるが,タイ

プBは,高潮位プラットフォームとその海方

にもう一つのプラットフォームが描かれている。

 Birdの本文にはこの図13に関する明確な説明はない。図13Aは大ざっぱな記述に使われる表現である(p. 61)。Birdは, 成因的に過つであろうwave-cut, abrasion platformよりも,記載的な表現である,shore platformがいいと言っている(p. 50)。 この書籍では,岩質や地質構造の差による個別的な海岸での説明が多いが,ぼくは岩質の均質な場での記述にだけ注目してここにまとめる。

 ぼくは,wave-cut platformに対して波食面,abrasion platformに対しては海食台,と考えてきた。これは日本の研究書の傾向と一致していると思う。しかし,この区分は誤りである。Birdのp.64の第2段落ではそういう区分がされていない。wave-cut platforms can develop from the water’s edge seawards to a depth of 10 m, といった表現があったり,Where very broad shore platforms are found, they can only be explained as a wave-cut platforms if they have developed during a phase of slow marine transgression, などとある。ここでのwave-cut platformも,さらにはshore platformも,潮間帯プラットフォームではなく,日本的海食台をも含んでいるのである。

 荒巻(1971, pp. 215-215)で関連する部分を抜き出す。
「海食崖が後退したのちにできる平坦な波食面のことを海食台 abrasion platformまたは海食棚とか波食棚 wave-cut platform, wave-cut benchという**」とするが,この文には次のような注記がある。
 「海食台は絶えず海面下にある平滑な岩礁面をさし,波食棚は海食台よりも高いところに位置して,主に潮間帯にある平滑な面をさすように用いる人もある。また,絶えず海面下にある面を波食台 submarine bench,潮間帯にあるものを潮間海食台 inter-tidal bench,高潮面より上部にあって暴浪時に波のくる幅狭い面をストームベンチ storm benchというように名付けることもある」。

 前述の高橋達郎の分類と,Birdや荒巻の記述との間に齟齬がある。荒巻の「海食台は絶えず海面下にある平滑な岩礁面をさし,波食棚は海食台よりも高いところに位置して,主に潮間帯にある平滑な面をさすように用いる人もある」という記述に該当する一人が高橋達郎と言える。高橋のような分類を木庭は受け入れてきたが,この分類は一般的なものではない。次のGlossary of Geologyの記述を見てみよう。

Bates, R.L. and Jackson, J.A., editors, 1980. Glossary of Geology, 2nd edition. American Geological Institute, Falls Church, Virginia, USA.

shore platform (p. 578): A descriptive term for the horizontal or gently sloping surface produced along a shore by wave erosion; specify. a wave cut bench. Also, sometimes used as a purely descriptive term for wave-cut platform.

この説明では特に潮間帯付近のものか海面下のものかは特定されていないとも言える。along a shore,の意味が重要である。wave-cut bench,wave-cut platformを見る前に,shoreの定義を確認したい。

shore [coast](p. 578): (a), (b), (c)の三つの定義がある。後二つの定義から見る。
(a) The narrow strip of land immediately bordering any body of water, esp. a sea or a large lake; specif. the zone over which the ground is alternatively exposed and covered by tides or waves, or the zone between high water and low water. The shore is the most seaward part of the coast; its upper boundary is the landward limit of effective wave action at the base of the cliffs and its seaward limit is the low-water line. Subsided into a foreshore and a backshore.
(b) The term is commonly used in the sense of the shoreline and of the foreshore.
(c) A nautical term for land as distinguished from the sea.

  Birdのshore platformでのshoreの使い方は,(a)の最初の大雑把な定義である,”The narrow strip of land immediately bordering any body of water” に当たっている。現在の海岸研究者は,このようなshoreの使い方を決してしていない。この後のesp.以下の,”specif. the zone over which the ground is alternatively exposed and covered by tides or waves, or the zone between high water and low water”であり,shore platformを常に海面下の侵食面の宛てることは無いであろう。

wave-cut bench(p. 696):